うつ病患者の脳は睡眠中も活性化している

ノンレム睡眠でも脳が休めない状態に

うつ病のひとの睡眠が浅いこと、レム睡眠が長いこと、などをど説明してきました。睡眠の質の違いはわかったとして、実際の睡眠における脳の活動に、違いはあるのでしょうか?仮説としては、睡眠が浅い=「脳がしっかり休めていない」という予測が立ちます。

脳の活性化しているところが赤く、活動性が落ちているところが青くグラフィック化されるような脳機能画像があれば、わかりやすいですね。最新の脳画像技術を、うつ病を含めたこころの病気と睡眠についての研究に応用している世界第一人者が、アメリカ・ピッツバーグ大学精神科のエリック・ノフツインガ一教授です。

彼の研究によると、健康なひとでは、ノンレム睡眠中に脳の代謝は十分に低下していました。しかし健康なひとと比べて、うつ病の患者さんでは、代謝の低下度合いがいまひとつだという結果でした。うつ病の患者さんは、健康なひとに比べて、ノンレム睡眠中に脳が十分に休めていないのです。

さらに、人間の意欲や感情などをコントロールする、いわゆる「古い脳」といわれる大脳辺緑系が活性化していました。大脳辺緑系とは、今までも何回かたいじょえノかい登場した扁桃体、帯状回という部位です。

絶望せず、睡眠を改善することが治療の第一歩です

うつ病の患者さんの脳は、睡眠中ちゃんと休めていない、というのは医学的な事実のようです。さらに、扁桃体など「古い脳」がレム睡眠中に活発になっているということは、うつ病とレム睡眠のメカニズムとのあいだに、なんらかの関係があると思われます。

「脳機能画像でどこそこが活性化していた」といったデータを、セロトニンやノルアドレナリンなど神経伝達物質の知見と結びつけられれば、さらにうつ病の解明とともに、健康なひとの睡眠に関する研究も進むと思います。

レム睡眠中はアセチルコリンという物質の分泌量が増えることがわかっています。ほかにも睡眠に関する化学物質には、ホルモンのメラトニン、神経ペプチドのオレキシンなど、さまざまな物質が関与しています。将来は遺伝子も含めた研究に発展して、病気の治療にむすびつけばと思っています。

うつ病の初期治療でいちばん重要なのは、睡眠と食欲を改善きせることです。なぜなら、食と眠りがまずよくならないと、心身ともに疲弊してしまい、「もう治らないんじゃないか」という絶望感を強くしてしまうからです。まず不眠を治して、治療に対する期待を高める。日常の臨床でも、うつ病と睡眠との関係は、切っても切れないのです。

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