ストレスフルなうつ状態のひとは、上手に眠れず疲れが取れません

睡眠が浅いと、脳がしっかり休めません

つい数年前までは、睡眠医学に携わっている医師で多数を占めていたのは、精神科医でした。なぜでしょうか?

精神科で扱う病気、統合失調症、うつ病、操うつ病(現在では双極性障害といいます)、不安障害、適応障害などはとんどの病気に睡眠障害が起こってくるからです。

現代の睡眠医学の担い手は、睡眠時無呼吸症候群を得意とする呼吸器科医や耳鼻咽喉科医、歯科医、脊髄小脳変性症など睡眠障害を併発する病気も扱う神経内科医、最近では子どもの夜更かし、うつなどで注目されている子どもを診療する小児科医など、バラエティに富んでいます。

しかし不眠の患者さんをいちばんたくさん診る機会が多いのは、精神科医だと思います。睡眠薬にいちばん詳しいのは、今でも精神科医です。睡眠に問題が生じてこないうつ病は、ほとんどないといっていいと思います。
うつ病でよく見られる9つの症状にも不眠ははいっています。

「寝付きが良くない」「夜中に目が覚めてしまって眠れない」「夜明けに早々と起きてしまってつらい」「睡眠時間はとれているが、なんとなく寝た気がしない」など、睡眠障害はさまざまです。

一般的にうつ病の不眠は、「夜明けに早々と起きてしまってつらい」、専門用語でいうと「早朝覚醒」のパターンが多いのが一般的ですが、早朝覚醒ばかりというわけではありません。

うつ病の睡眠は、いったいどういう様子なのでしょう?
睡眠ポリグラフを用いたうつ病患者さんの睡眠の研究は、1980年代から1990年代にかけて活発に行われました。それらの研究結果によると、うつ病の患者さんの多くは、睡眠効率(ベッドに入っている時間に対する、実際眠っている時間の割合) が悪くなります。

ベッドに入ってから入眠するまでの時間も長くなって、なかなか寝付けなくなります。深い睡眠=徐波睡眠の出現量も減ってしまいます。

面白いのは、うつ病の睡眠では、レム睡眠が長くなり、それにレム密度が増えることです。レム睡眠中は、目がキョロキョロとスピーディに動く急速眼球運動が特徴的ですが、レム密度とはこの眼球運動がどれくらい多く見られるかを示しています。
うつ病患者きんの脳波では、レム睡眠が活発だという結果が、多くの研究で確認されています。

ストレスが眠りの質を下げる理由

どうしてうつ病のひとはレム睡眠が活発なのか?実はその答えは、まだ出ていません。仮説として、HPA軸の活性化という概念があります。

HPA軸とは、腎系の頭文字を取ったもので、H(脳の視床下部)、P(脳下垂体)、A(副ストレスに反応する脳、内分泌系のシステムだといわれています。

アドレナリンやノルアドレナリンを制御するシステム、といえばわかりやすいかもしれません。ストレスが加われぼ、一時的にこのH PA軸が活発になり、不眠が出現します。

ストレスから解放されれぼ、不眠もHPA軸も回復しますが、一部のひとは不眠が続きます。この慢性の不眠がHPA軸を活性化させ、内分泌系のコルチコトロピン放出ホルモンという覚醒作用のあるホルモンを産出します。

HPA軸の活性化が不眠を増強させ、長く続くとうつ病となってしまう、という仮説です。これまでど説明してきたのは、不眠がメインの、一般的なうつ病についての睡眠の話です。逆に寝過ぎてしまって、起きているときも眠いという、「過眠」タイプのうつ病のかたもいます。

最近雑誌などで取り上げられる「新型うつ病」とも共通点があるのですが、過眠タイプは「非定型うつ病」と呼ぼれています。この「非定型うつ病」の睡眠の様子は、実はほとんどわかっていません。

また、一定の期間にわたってハイテンションな時期がある双極性障害(操うつ病)の睡眠状態も、確かなことはわかっていません。

この双極性障害、現在の精神科のトピックで、軽いかたを含めると意外に数が多いことがわかってきています。わたしは、双極性障害や非定型うつ病など、今まで注目されていなかった病気の睡眠の状態を研究しています。遺伝子研究のように、病気の本態解明を目指した研究ではありません。しかし、睡眠の中に、治療のヒントが隠れているかもしれないのです。

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ブログやアプリで睡眠日記をつける

スリープダイアリーで「眠り」を視覚化する

「レコーディング・ダイエット」は、とにかく食べたものはすべて記録して1500キロカロリー以内に収めるという、ローコストなダイエット法です。非常に人気で簡単にできるために大ブームになりました。

記録するという作業は、やったことや成果が目に見えるようになるという点で、大きな効果があります。睡眠管理も、また同じです。

睡眠障害の疑いのある患者さんには、「スリープダイアリー」(睡眠日記) をよく付けてもらいます。これはなにも日々の睡眠について感想文を書くとか、そういうものではありません。横軸に時間をとって、寝ている時間を塗りつぶすだけのシンプルな、チャートのようなものです。睡眠時間が短いと、塗りつぶされる部分が少なくなってきます。

記録することで、規則正しく起きられているか、眠れているかが、視覚的にわかります。週末だけ寝坊しているなど、なんとなくわかっている傾向も、視覚的に把握できます。

ただし、スリープダイアリーには、「付けるのが面倒くさい」という致命的な欠点があります。付けることが気になって、不眠になってしまったという笑えない副作用もあります。

試してみたい? 睡眠アプリ

スマートフォンなど携帯に便利なデバイスが普及していますから、これらを使わないのはもったいない話です。スマホの「睡眠アプリ」を使用している患者さんも、ちらほらいらっしやいます。

日進月歩どころか秒速分歩ぐらいのスピードで発展するアプリ業界ですので、さらに最新の機能をそなえたアプリがダウンロードできるかもしれません。

医療用としては、「ライフコーダ」という万歩計のような機械を患者さんに貸し出して、睡眠覚醒リズムを連続して記録してもらうことがあります。記録を分析すると、何時に寝て何時に起きたか、週末は寝坊していたかなどが、一見してわかるようにできています。

現在は医療用なのですが、将来は万歩計サイズをさらに小型化して、タラウドサービスにして医療用から一般用にすることを目指しているようです。

今までは睡眠をモニタリングしようとすると、機械が大きい、身に着けるのがウザいなどという、基本的なボトルネックが大きな問題として立ちはだかっていました。

しかし技術の進歩によって、こういった短所は改善されつつあります。自宅で何の苦労もなく睡眠が記録できる「睡眠ホームモニタリング」ができる日も、遠くないかもしれません。

短時間睡眠(ショートスリープ)の人の脳はどうなっているのか?

元気で短眠な人は存在する?

わたしの知り合いの某教授は、1日の睡眠時間が3時間です。「僕は子どものころから3時間睡眠」と豪語していて、勤務状況や仕事量も尋常ではないはど旺盛なので、おそらく本人のおっしゃるとおりなのでしょう。

睡眠障害の国際的な分類では、昼寝も含めて1日平均5時間以下しか眠っていないにもかかわらず、日中生活に支障をきたさないひとを、「ショート・スリーパー」と呼んでいます。

疫学調査では、人口の4~5 %前後という研究結果もあります。しかし、病気により睡眠時間が短いひとが含まれている可能性もあり、「元気で短眠」がどれくらいいるのかという点では、はっきりした数字はありません。

「ショートスリーパー」をウィキペディアなどで調べると、ナポレオン、エジソン、ダ・ピンチなどの著名人が書いてあります。
彼らの言葉や行動の記録からそう考えられているようですが、歴史上の人物でもう亡くなっているので、本人に直接確認することはできません。現代でも政治家や芸能人には、ショートスリーパーが多いのかもしれません。

短眠遺伝子は本当に存在するの?

「ショートスリーパー」は遺伝子の発現結果なのか、育った家庭環境の影響なのか、もしくは努力で睡眠時間を短縮できたのか?

まずは動物の遺伝子研究から見てみましょう。使った動物は、ショウジョウバエというハエです。アメリカ・ウィスコンシン大学のチアラ・テレッリ教授は、ショウジョウバエの中で1日中活動量の落ちない、はとんど眠っていない群があるのを発見しました。
その群の遺伝子解析をしてミニスリープ(minisleep:mns)という変異体があるのを発見しました。これが突然変異を起こし、「Shaker」という遺伝子になるというのです。が、ハエと人間では大違いです。

人間に短眠遺伝子は存在するのか、という疑問はまだ解決していません。また、人間の朝型、夜型には、時計遺伝子のひとつであるclock遺伝子が関与しているという報告もありますが、追試では確認きれていません。

短眠遺伝子の研究は、まだまだこれからのようです。逆に、毎日10時間以上眠るひとを、「ロングスリーパー」と呼びます。
物理学者のアインシュタインがロングスリーパーであったといわれています。睡眠時間が10 時間以上のひとは人口の約2 %程度いるといわれていますが、この中には、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害やはかの病気のひとも多く含まれていると考えられています。

原因はよくわからないとして、ショートスリーパーの睡眠の質は、たいへん効率的という結果が出ています。ショートスリーパーでは寝付きが早く、深いノンレム睡眠が十分とれているが、浅いノンレム睡眠やレム睡眠は少ない、というものです。

責任感の強いひとはどよく眠る?

性格や考え方、行動パターンも、ショートスリーパーとロングスリーパーでは違うといわれています。ショートスリーパーは社交的、外向的な性格で、活動量、仕事量も多いです。

一方、ロングスリーパーは内向的でじっくりものを考えるのに向いている、責任感が強い、といわれています。ショートスリーパーは肉食系の政治家、経営者ならば、ロングスリーパーは草食系の研究者、芸術家、といったイメージですね。

政治家と学者の双方を経験した竹中平蔵氏が書籍において興味深いことを書いていますます。「政治家のように忙しく動き回って30分おきに人と会うような仕事、つまり1日中ハイテンションでアドレナリンが放出しまくりというタイプの仕事は、多少の寝不足でも可能です。

ところが、精神を集中させる作業、すなわち勉強や原稿の執筆などの仕事は、ハイな状態では到底できない、というのです。

このように、仕事の内容が、睡眠時間やリズムに影響を与えることも、十分考えられることだと思います。

「じゃあ、睡眠時間は努力で短くできるの?」という問いに対する答えとしては、ある程度までは不可能ではないとお答えできると思います。

ナポレオンやエジソンも、細切れの仮眠を積極的に活用して、リフレッシュしていたようです。現在ど多忙のビジネスパーソンや芸能人にも、移動中の電車や自動車の中で仮眠をとって、エナジーアップしているかたが多いと思います。

ただし、人間にはそれぞれ必要な睡眠時間に個人差があります。日中のパフォーマンスを落としてまで短眠にチャレンジするのは、本末転倒です。睡眠環境の調整、適度な食事や運動、朝の光を浴びる、仮眠の活用、など、健康に支障のない方法での「睡眠の効率化」をおすすめしたいと思います。

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